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第51回 「現実と魔法が交錯する、幻想的な世界へ」

前回、前々回と少し読む人を選ぶ感じの変わった小説を選んだので、今回は気分を変えて児童書をご紹介します。

 

「児童書」というと、皆さんはどんな本を思い浮かべますか。

 

いろいろ思い浮かんで、一つには絞れないという方も多いと思います。
私もその一人です。ですがその中でも、大人になっても折に触れて急に思い出して読みたくなる、誰にとってもそんな特別な思い入れのある本が存在するのではないでしょうか。

今回は私にとってのそんな本を選んでみました。

 

          『妖精のおよめさん』

           アリソン・アトリー著、三保みずえ訳(掌編4編) (評論社)

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          『西風のくれた鍵』

           アリソン・アトリー著、石井桃子・中川李枝子訳(掌編6篇)  (岩波少年文庫)

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         『氷の花たば』

              アリソン・アトリー著、石井桃子・中川李枝子訳(掌編6篇)  (岩波少年文庫)

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人間と妖精との交錯した不思議な世界を自然の息吹にみちたイギリスの豊かな田園風景を背景に書いた、4~6篇から為る美しい幻想短編集です。

 

私が一番最初に読んだ読んだ本は『妖精のおよめさん』なのですが、より子供向けで簡単な翻訳になっている印象があることもあり、岩波少年文庫の2冊も一緒に上げさせていただきました。
また、『妖精のおよめさん』に収録されている4編は、岩波少年文庫に収録されているものと同じ作品ですので、翻訳の違いを比べてみるのも面白いかもしれません。

 

それでは、12篇のお話の内容を簡単にご説明。()の中の題は『妖精のおよめさん』でのタイトルになります。

・『ピクシーのスカーフ』
 (動物の言葉がわかる不思議なスカーフを拾った少年の話)

・『雪むすめ』(雪むすめ)
 (少年の作った少女の形をした雪だるまを北風が花嫁として雪と氷の国へ持ち帰る話)

・『鋳かけ屋の宝もの』
 (小さい町々を鍋ややかんを直して回る貧しい鋳かけ屋が手に入れた宝物の話)
 
・『幻のスパイス売り』(スパイス売りのおばあさん)
 (スパイス売りのおばあさんとお城の厨房の下働きの少女の話)

・『妖精の花嫁ポリー』(妖精のおよめさん)
 (ピクシーに見そめられて花嫁になった人間の女性の話)

・『西風のくれた鍵』
 (西風のくれた鍵で木の秘密を知った少年の話)

・『メリー・ゴー・ラウンド』
 (兄弟のお気に入りのメリー・ゴーラウンドの馬たちが動き出す話)

・『七面鳥とガチョウ』
 (クリスマスに欠かせないご馳走たちがクリスマスを楽しむため家から逃げ出す話)

・『木こりの娘』(チェリーと金色のクマ)
 (少女が暖炉から現れた金色熊に掛けれた魔法を解くためにドレスを作る話)

・『妖精の船』
 (少年と船乗りの父親のクリスマスのお話)

・『氷の花たば』
 (父親の約束により、不思議な存在の花嫁となる人間の少女の話)

・『麦の子 ジョン・バーリーコーン』
 (お婆さんが拾った卵から生まれた不思議な子どもの話)

 

それぞれ素敵なお話なのですが、私のお気に入りは『幻のスパイス売り(スパイス売りのおばあさん)』と『木こりの娘(チェリーと金色のクマ)』です。

 

『幻のスパイス売り』。スパイス売りのおばあさんの歌う

 【ナツメグに シナモン/ジンジャーに キャラウェイーー】

という一文を未だに覚えています。大体いつも久しぶりにこの本を読みたいなと思う時は、この文章を思い起こすところから始めまるので、私の中ではかなり印象に残っているものだと思われます。おしまいまで読み切って、スパイス売りが代々受け継がれていってたりしたら面白いのになぁと横道に逸れたことを考えたりします。
『木こりの娘』は、桜のように美しい少女チェリーが暖炉から現れた金色熊と出会い、イラクサで上着を山桜でドレスを作るのですが、実はそれらは金色熊の魔法を解くために必要なもので……。とにかく服の仕上がり方や自然描写が精密で美しく、特に桜の花びらは香りや柔らかさが伝わってくるような、本当に素敵なお話です。最後に雪のように桜の花びらが舞い降る情景もとても綺麗です。

どちらのお話も最後が幸せに終わるので、ほんのり温かい気持ちになれます。

 

逆に少し切ないお話が好みなら、『雪むすめ』、『妖精の花嫁ポリー(妖精のおよめさん)』がおすすめです。

どちらの主人公も、幻想の世界から一度は自分の故郷に帰りたいと願い故郷に帰るのですが、そこにはもはや自分の居場所はありません。結局、一度人間の世界を離れた主人公たちは人間の世界にとって自分が異質なものなのだと思い知り、育った世界に帰ることになります。二人が生まれ故郷に居場所をなくしてしまったことは、人間と妖精の世界の越えがたい壁を感じさせます。

 

巡る季節と自然、過ぎ去ってしまった時間への愛惜……。そういった浮かんでは消える泡沫の夢のような想念が、妖精や魔法の姿を借りて現れているような、美しく不思議なお話たちです。
作者はこのお話を小学生の中~高学年程度の子供を想定して書かれたそうなのですが、大人が読んでも十分楽しめますし、逆に大人になったからこそ読み取れることもあるのではないかと感じさせられます。
たまには立ち止まって子供心を思い出してみるのも、素敵なことではないでしょうか。

 

そして、今回から次回の担当者へブログ内容に縛りの指定をすることになったそうですので……、

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次回の方は
「カタカナ用語を使用せずに何か
おすすめの本や映画、音楽などについて」
        ということでお願いします。