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第76回「こんな夢を……」

 

 

梅雨入りが始まる季節になりました。
「卯の花腐し」という言葉もありますが、雨や曇りが多い梅雨は美しいけれど、どうにも陰鬱な印象を覚えます。

……というわけで。今回はそんな梅雨の時期に相応しく?美しく幻想的で――しかしながら、どこか薄気味悪さを感じる小説をご紹介します。


さて、「夏目漱石」をご存じの方は多いかと思います。
明治から大正にかけての小説家で、『吾輩は猫である』『こころ』『坊ちゃん』など……。内容は覚えていなくとも、題名は国語の教科書で見たような記憶がある、という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
夏目漱石といえば「余裕派」に属し、人生に対して余裕を持って望み、高踏的な見方で物事を捉えた作品を著したことで有名です。
――しかしこれからご紹介する小説は、夏目漱石の著作としてはかなり異色の作品です。



……前置きが長くなりましたが、今回は夏目漱石著『夢十夜』をご紹介したいと思います。

『夢十夜』は、その名の通り「こんな夢を見た」という特徴的な書き出しから始まる、10の短編で構成された夢のお話です。前述の通り、夏目漱石の作品の中では些か毛色の違った作品といえます。題名や内容に覚えがあっても、その作者が夏目漱石であるということを知らない方もいるようです。
夢についてのお話ですが、その内容が実際に夏目漱石本人が見た夢なのか、それとも夢として創作したものなのかは定かではありません。

10編の中で特に有名なのは、死ぬ間際の女に「百年待っていてください」と頼まれ、女の墓で百年待ち続ける『第一夜』。背負っている盲目の子どもを捨ててしまおうと森へ向かう『第三夜』、でしょうか。

短いお話ですのでどちらも結末はここには示しません。この二つ以外のどのお話も、全て不可思議でどこか不気味な余韻を残す作品です。
また一夜一夜の夢は独立した内容となっていますが、「百年」「いくさ」「庄太郎」など、いくつかの短編に共通するキーワードもあり、深読みしたくなる作品でもあります。


『夢十夜』は文庫本の他、「青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)」でウェブ上で無料で読むこともできます。少し時間があるときに1編ずつ読んでみるのもおすすめです。
また『夢十夜』は様々な書き手によって漫画化されており、2007年には11人の監督によるオムニバス作品『ユメ十夜』として映画にもなっています。
活字は少し手を出しづらいという方は、まずは漫画や映像から入ってみるのも一つの方法かもしれません。小説とは一味違う表現が楽しめますので、お気に入りの作品を探してみるのはいかがでしょう。



家の中に引きこもりがちになる梅雨の季節。
折角ですので普段あまり読書をしないという方も、この機会に是非ご自分の目で10編の夢の結末を確認してみてください。







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